南町田に置き忘れたもの

先月11月13日に南町田グランベリーパークが開業しました。土日の混雑を避けてさっそく15日金曜日に
訪れてみました。
天気に恵まれオープンモールの良さを楽しむことができましたが、第一印象として犬連れの来訪客が多いことに驚かされます。さすが、スヌーピーミュージアムを設置し、スヌーピーをシンボルにするショッピングセンターなどと思ってしまいます。
スヌーピーミュージアムは12月14日オープン)
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さて、私はこのコラムでは、買物客目線での店揃えの評価や、六車秀之氏のような専門家目線でSC(ショッピングセンター)の体系的分類や定義づけに踏み込むのではなく、独自の角度から散歩するかのように、気ままに南町田に触れてみたいと思います。

まず、「南町田グランベリーパーク」のネーミング
についてですが、「タウン」ではなく「パーク」にしたことを喜びたいと思っています。
デベロッパーの東急電鉄さんとしては、駅直結の広大なSCを開発し、街づくりに込める熱意を「タウン」で表現したかったかもしれなかったものを、あえて「パーク」にした。想像ですが、ネーミング決定経緯の中で「タウン」だ「パーク」だと、議論があったことだろうと思います。

私は、この商業施設の最大の功績は、広大な公園(鶴間公園等)を併設したことだと考えています。
その意味でネーミングに「パーク」を選んだことを
その潔さを買いたいのです。「タウン」では成金趣味的というか、田舎者的というか、そのあたりのセンスです。

豊かに実ったクランベリー

また、「グランベリーモール」の頃から、「グランベリー」はクランベリーを想起させ、語感もよく、
印象的と感じていました。植物としてのクランベリーは、ブルーベリーやプルーンなどのヘルシーさとともに、赤いイメージにつながります。この赤い味の集まりを数々のショップになぞらえて、結果グランベリーと造語化したのではないでしょうか。

こうして、南町田グランベリーパークになったのではと、勝手に思っています。実際のネーミングの経緯については、知る由もありません。

ある意味このショッピングセンターのネーミングには、この商業施設の価値 、 私の価値観でのですがそれがすべて出ているかもしれません。
私は「グローカルセンター」というコンセプトで商業施設を捉えています。このことの詳細については
日本ショッピングセンター協会の月刊誌「SCJT」2004年12月号に表しています。手短に言うならば、
広域集客価値を備えることにより、国際的な集客にもつなげ、観光立国にも資するものにしたい、との
論文になっています。

南町田グランベリーパークは、郊外いわゆる「ニュータウン」の立地と言えると思います。それだけに広大な水平展開した施設と公園を構成できています。地価を惜しんで空中に建物を高層に積み上げることもなく、リッチに土地を活かせています。
しかしながら、六本木ヒルズにおける毛利庭園のような歴史・伝統遺産的な要素は、見出だしようもありません。森美術館のような芸術・文化の生成を指向した機能も探しあぐねます。故ジョン・ジャーディ氏が拘ったオーバーハングの傾斜壁等のような建築的価値の挑戦も見られません(モンベルのクライミングウォールはあるのですが)。
もちろん、市民の憩いや運動場としての鶴間公園があり、ギャザリングマーケットなる飲食ゾーンの新しいプロトタイプが試みられてもいます。

私の寝言

行列のできるカレーパンの店や、セントラルキッチンが地元にある食品スーパーなど、これはこれで、
商業施設としてすばらしいわけですが、そのあたりのクオリティーに、何というか情報発信性のある文化的価値、例えて言えばスローフードといった新しい価値観がイタリアのある町から興ったというような、そういものがないか、と期待しているのです。ちょっとわかりにくいかと思いますが、販売個数でギネス記録達成、そこではなく、例えばカレー粉の原料のターメリックの栽培方法に、全く新しい概念などがあって、それが世界的な拡散性があるもので、しかもそれが南町田発祥の何かである、というようなことです。

何寝言を、という声が聞こえてきますが、私がショッピングセンターに求める価値とは、商業施設の不動産価値でもなければ、アウトレットショップでテナントミックスした買物しやすい顧客満足価値でもありません。

横浜の赤レンガ倉庫は、横浜港の歴史的建造物ですが、ショッピングセンターとしての「横浜赤レンガ倉庫」開業とは、歴史的建造物を現代の建築基準をクリアーするエスプリがあってこそ、できたことです。こうした遺産価値的要素と現代のテクノロジー
との融合といった、そのシンボルと言うべき横浜赤レンガ倉庫。こういう価値が情報発信性があり、日本文化の一つとして語れるものになる、と考えています。
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私が語るある価値像がショッピングセンターの建築価値化と受け取られないように、別の角度からも言っておきたいと思います。
十九世紀にウィリアム・モリスがアーツ&クラフツ運動を起こしましたが、こうした美術デザイン運動をショッピングセンターの一ショップから始めることも可能だと信じています。
国内にも、黒壁スクエアのガラス館のような、地域の伝統ではないものの新たな工芸文化を商業的に興し、成功させている事例もあります。

幾つか具体例として、私のイメージを紹介しましたが、どこまで伝わるかは未知数です。要するに、新しい価値の形成を通じて、その発信力により、世界からも、集客したい、そういうショッピングセンターがほしい、ということです。
それを実現する商業施設を「グローカルセンター」と考えているわけです。

私の個人的見解で南町田グランベリーパークを批判しているわけではなく、私がショッピングセンターに寄せる夢を、久々の魅力的な商業施設の開業に因んで語っているに過ぎません。

SCにもお臍がほしい

このSCから10分ほど離れた町田市内に、熊野神社があることを後から知りました。できれば隣接していたらよかったと、悔やまれます。
私は神社とは、町におけるお臍だと考えています。このお臍があると、町が締まります。
たとえば、自由が丘を一つのショッピングセンターと見立てることができますが、この瀟洒な町に落着きを与えているのは、熊野神社だと思っています。
毎年秋に催されるお祭りも、昔ながらのものです。
昔、緑ヶ丘に住んでいた当時の三島由紀夫がこの熊野神社で御神輿を担いだのは有名なエピソードです。
同じ分脈で、キャナルシティ博多と隣接する櫛田神社の取り合せは、それを知った時、私は鳥肌が立ちました。いわば経済的繁栄を象徴するキャナルと、
博多の伝統・歴史を語る櫛田神社のハーモニーに
しびれたのです。こういう町の豊かさを体感できること、こういう意味でのショッピングセンターの魅力を、私は夢見ているわけです。

何年かぶりで乗った東急田園都市線。それだけで自分のステータスが上がったと一瞬でも感じてしまうのは、随分田舎者だと感じます。かつて5年ほど、
この沿線で暮らしたことがあったのに、です。
駅に着くとすぐエスカレーターがあり、そのまま南町田グランベリーパークに足を踏み入れているのでした。みなとみらい駅からクイーンズスクエアに昇っていく感覚に重なります。どっちも、電鉄系にこそできることです。

乾燥果実としてのクランベリー

オープンモールの開放感は、快適です。私が訪った
この日は天候に恵まれ、モンベル脇の2階芝生エリアから丹沢方面を望むと、すばらしい残照でした。
アメリカやカナダでは、クランベリーの栽培を大々的に行なっているようです。私たちは、その加工品のクランベリーをスーパーなどに見かけることができます。私が南町田で邂逅したものは、豊かにたわわに赤く実ったクランベリー畑というより、乾燥したレーズンのように、カサカサで、干からびた、薄っぺらの、商業主義だけの、経済大国に相応しい、
正に商業施設であり、驚かれはしても、リスペクトされることのない、残念な町であった、というのが
正直な感想です。
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このように個人的見解を勝手に述べましたが、私の構想する理想像から言えば、南町田グランベリーパークに先駆けて11月1日に開業した渋谷スクランブルスクエアこそ、注目すべきかもしれません。特に15階の渋谷キューズにはワクワクさせられます。説明によれば「世の中の新しい価値につながる種を生み出すことを目指した会員制の共創施設」だそうで
す。慶応はじめ五つの大学が提携、オフィスフロアにはサイバーエージェント、ZINE、ミクシィなどが入っているようです。なんというか、クリエイティブな匂いが漂ってきます。しかも「渋谷から世界へ問いかける」そうであり、こうでなくちゃ、これこれ、と思ってしまいます。忘れてならないのは、この物件にも東急さんはしっかり関わっています。

ショッピングセンター業界は、 2000年頃を境に大変化があったと思います。業界に革命を齎した定期借家契約の導入や、大店立地法を始めとする町づくり三法の施行で、日本じゅう津々浦々にショッピングセンターが文字通り雨後の筍のようにできてきました。〇〇モール大はやりで、全国どこへ行っても
同じ店揃え、金太郎飴の商業施設です。「コンパクトシティ構想」なる一時しのぎのアイデアまことしやかに吹聴され、日本の商店街はみごとにガラパゴス化を達成しています。

それだけに、流通業界ではない電鉄系のデベロッパーが主導する「街づくり」には、期待があったということにもなりましょう。
規模はなくとも、ライフスタイルセンターの方向にも期するものがあります。業界では有名な若葉ケヤキモールや、私が、今年になってやっと訪問できた湘南TーSITE。しかし、「なんだかな~」感が拭えません。サイズや立地に関わらず今後期待されるショッピングセンターがもう出てこないのでは、と悲観的になっているところに、渋谷キューズを擁する渋谷スクランブルスクエアが現れてくれました。

各鉄道会社には、忘れ物のためにお問合せセンターや、お客様センターが必ずあるわけですが、今私には「南町田忘れ物取扱所」には、きっと、大きな忘れ物が届いているように思われてしかたがありません。しかも、期間が過ぎても誰も取りに来ないので、とっくに警察へ送られているのかもしれませんが…★