SNSジャーナリズムの時代

─ 上海電力疑獄をめぐって

2022年も6月に入りましたが、今最もホットなニュースといえば、上海電力問題と言えましょう。ロシアのウクライナ侵攻の出口が見えない中、わが国の中では特にネット世界の話題として、日々更新され、新たな事実がさらされています。

橋下徹とは何なのさ
特に、元大阪市長橋下徹氏が絡んでいて、テレビ出演しては派手に騒ぎ立てることもあり、その真偽のほどが耳目を集めているといったところでしょうか。
予め一言お伝えしなければならないのは、
このブログでは上海電力問題そのものについて論じるものではありません。私の視点は、上海電力問題にまつわる報道、表現方法について考察を試みるものです。

わが国の安全保障に関わる重要問題であるとともに、橋下徹氏の言論が極めてあやしく、ネット動画を通じての新たな情報は、われわれを強烈に引き込んでしまうものがあります。4月頃からか、この問題については、私もいつの間にか引き込まれていました。次から次へとネット動画があがってきて、視聴者の関心も高いようで、大勢のネット民が注視する問題となっていると思われます。

お二人は炎上がお好き
センセーショナルなところでは、橋下氏の発言に対し、百田尚樹氏がツイッターで噛みつき、それに橋下氏が応酬するやりとりあたりでしょう。今回の件では、ロシアのウクライナ侵攻に対して橋下氏の「早く退却した方がいい」といった趣旨のコメントが端緒だったと思います。
それに反して、敵国の攻撃に背を向けて退却するというような発想には、ウクライナのゼレンスキー大統領を応援する人々には、到底理解できないものです。そうした百田氏に追随する主張の言論人を、橋下氏は「百田グループ」と命名。百田氏はこれを逆手にとって自身の動画で「百田グループの皆さんこんばんは」などと活用しています。
特に橋下氏の発言が中国を擁護し、中国を利するベクトルを持っていることが問題であり、真偽のほどはともかく彼は過去に中国のトラップにかかっているのでは、とも囁かれています。

上海電力は橋下電力か?
4月、いや5月になっていたかもしれませんが、花田紀凱氏の動画番組「週刊誌欠席裁判」のゲストで出演したジャーナリスト山口敬之氏は、橋下徹氏に関して調べ始めているとのコメントがありました。その番組のメンバーも橋下氏の発言に対する疑問を表明していました。山口氏は橋下氏の問題については番組中極めて禁欲的にコメントをするばかりで、戦略として全部を語らないと明言していました。徐々に全貌を明らかにされると受け止めた私は、その後この問題への興味を充填されてしまったようなものです。

しかし「週刊誌欠席裁判」の中で、山口氏がゲスト出演しても、この問題について、その後あまり語らなくなったような気がします。私が番組を逐一ウオッチできているわけではないので、私が知らないところで語られている可能性もあるものの、月刊Hanada7月号で山口敬之氏著「橋下徹と上海電力の闇」の掲載が出てきたので、そういう風に詳細発表の場を定めたのだろうと、合点がいきました。
(「週刊誌欠席裁判」の有料動画で、山口氏は橋下氏や上海電力について触れている模様)

ここで上海電力問題の核心を確認しておきますが、まず上海電力日本株式会社は中国共産党直系の国営企業であり、同国が国策として進める一帯一路の具現化として、大阪咲洲(さきしま)メガソーラー発電所の設置が行なわれ、それを運営しているのが上海電力日本㈱です。これが橋下市長の時代に、いくつもの不審な手続きを経て誘致が行なわれているために、橋下氏や大阪市議会に疑義が持たれているわけです。しかも、電力インフラをかの専制国家に売り渡すことは、わが国の安全保障上のリスクを招くことであり、とんでもない問題です。このことについて今まで公けになったことはなく、これを山口氏は「ステルス参入」と言い「橋下市政が呼び込んだ」と喝破しています。

山口氏はウェブサイトの「Hanadaプラス」でも記事訴求を展開していて、一番最初の投稿は2022年4月8日となっています。この問題を発見し、取材し、精密に追跡を始めたジャーナリストは山口氏であろうと、私は思っています。有本香氏が8年前からこの問題を取材していると述べていますが、それなら、何故その頃から糾弾しなかったのだろうと、不思議に感じます。他の専門家もこの問題を取り上げていて、百花繚乱といった感じですが、エビデンスを掴みファクトを一つ一つ明らかにしているのは、山口氏と言えましょう。

月刊Hanada7月号表紙
同氏が、この問題の周知のために展開しているツールを一覧してみましょう。
YouTube等動画
刊誌欠席裁判
・文化人放送局
メルマガ
ブログ
 ・Hanadaプラス
●雑誌
 ・月刊Hanada
などです。

これらで基軸になるのは、ブログやメルマガや雑誌の記事と言えましょう。
山口氏が上海電力の異常な参入=ステルス参入について、受注資格がないのに大阪市が事業者として認定しているなど、次々に暴いていて、私が次は?と思っている時確か6月頭、金子吉友氏の動画「咲洲メガソーラー、脱原発、IRカジノ─橋下徹の密謀説」だったと思いますが、これを見たら驚いてしまいました。時間は3時間以上4時間あったかもしれませんが、あっという間でした。※
この動画(YouTube)を機会に金子吉友氏を調べてみると、「あつまれニュースの森」の番組をもつユーチューバーといったところですが、コンサルタントとしての仕事も行なっているようです。

金子吉友登場!
金子氏の動画は、彼のコメントで説明していく際に、エビデンスとなる上海電力のホームページを見せたり、自身の作成によるチャート図を示し解説していきます。コメントつまりナレーションだけではないので、わかりやすく感じられます。大阪市のウェブサイトから引用したり、山口氏のHanadaプラスから転載したり、その説明資料の豊富な活用は驚くほどです。こうした技術的処理はかなり手慣れているように見受けられます。

圧巻は、「一帯一路誘致スキーム(相関図)」です。これには唸ってしまいました。全容が一覧できるのです。この相関図に出てくる名前を列挙すれば、河野洋平
橋下徹松井一郎、吉村洋文、竹中平蔵北尾吉孝·····等々という具合です。この図で、あるいは金子氏の動画を通して、最重要点は一帯一路という中国の国策に、日本の一部の人間が加担しているらしいという事実です。

私は金子氏の動画を知るまで、咲洲メガソーラー事業における上海電力の誘致が、わが国の安全保障上極めて由々しきことという認識はありましたが、それが一帯一路とは結びついてはいませんでした。実は一帯一路の施策としての上海電力の進出だったとは?!しかも相関図で一目瞭然なようにわが国の様々な人間が、その実現に手を貸している!
おいおい、どうなっているんだ!!

数年前からサイレント・インベージョンが語られ中国に侵食される諸外国に唖然としていましたが、この国の足元でこれほど進行しているとは、ゾッとしてしまいます。

この金子氏の相関図が出てきた時点で、私は上海電力問題のプレゼン方法に関して、
山口氏のプレゼンが急に小さくなっていく感覚を味わいました。この問題の全容の表現方法として、総合的全体的包括的であることが金子氏の戦略であり、山口氏の取材によるエビデンスは金子氏の全容の部分的補強に資することになってしまいます。山口氏は、入札の方法、請負会社の資格等、一つ一つ解き明かし、問題を示していきます。

蟻の眼か、鳥の眼か
帰納法的に一点一点を攻め、線と成す、そういう方法に見えます。一方金子氏は、演繹法的に面で一気に風呂敷を広げて見せ、部分的不備は後から掘り下げていけばいいのです。まず全容を俯瞰してしまう手法です。これは、上海電力問題の指摘を、視聴者へのプレゼンテーションと捉えて、そのアプローチの違いと言うことができるかもしれません。私は、「上海電力問題プレゼンテーション競争」が起きているとおもしろがっています。

相関図
金子氏がいつから上海電力問題に着眼したのかは掴みかねていますが、大阪市のIRや大阪維新について追跡していたようです。その流れの中で山口氏の問題意識、橋下徹─ 上海電力問題に繋がったのかもしれません。氏の表現上の主戦場は、動画になっているように思われます。一方山口氏はSNSも活用するのですが、旧来のジャーナリストのイメージが濃厚ではないでしょうか。

ここで山口氏の名誉のために押さえておきますが、当初私は山口氏には一帯一路に関わる視点はなかった、と思っていました。あくまで日本の安全保障を犯す上海電力問題、という認識だと見ていました。念のため、Hanadaプラス「橋下徹研究①」から読み返してみると、氏は当初から一帯一路政策に籠絡されているわが国の状態を認識されていました。すなわち、橋下徹氏への追及とは、中国の国策のスキームにはまっているこの国の問題研究という構想での着手だったことは明らかです。

今のところ新聞テレビ等の大手メディアでの大々的な報道は為されていないようです。中国と日本の国家同士の大問題に発展する可能性を燻らせています。
われわれ国民としては、断固として上海電力を排除すべきと考えるのが当たり前です。それが、今さらできるのかどうかわかりませんが、法的な対応なのか、放置はできない事柄です。まずは、マスメディアで周知され、大阪の問題で済むはずもなく、国会で審議されるべきほどの内容でしょう。それがもしできないとなったら、この国は本当にヤバいことになるでしょう。

関連する登場人物からして、維新の会だけではなく、自民党の関与もあるのではないか、とも言われています。かつての田中金脈問題、ロッキード事件等を超える大疑獄かもしれません。スキャンダルの側面はともかく、双方の国策上相容れない性質を持つ、対立軸の衝突になるように思われます。民主主義国家と、専制主義国会との対立とも言えます。仮に日本が上海電力排除を決めたとして、中国は高額の賠償金の類いを要求してくるでしょう。紛争の火種の可能性さえあるのではないでしょうか。これまでの最近の同国のやり方を見れば、推して知るべしです。債務トラップにより、港を失った国の話題は、まだ記憶に新しいところです。

立花隆の時代
過去の疑獄事件を想起してみれば、故立花隆氏の活躍が浮かんできます。田中金脈問題やロッキード疑獄等、随分昔のことになりましたが、国会での証人喚問のテレビ中継は、強烈でした。もちろん、上海電力疑獄がどこまでオープンになるか、できるかはわかりません。
立花隆氏が田中金脈問題に関して、4年前にインタビューに答えています。1974年月刊文藝春秋への掲載で始まったことに関して述べています、以下少し引用します。
「74年10月に発表しましたが、新聞は当初、追随しませんでした。当時は、新聞が書かないとニュースとして認められないような時代。新聞記者は雑誌ジャーナリズムを一段下に見ていたと思います。米紙が報じたことで、日本の新聞もようやく追いかけました」

当時は「雑誌ジャーナリズムが新聞から低く見られていた」とのことで、米紙が動くに及んで、日本の新聞をも追従するに至ったそうですが、氏が「調査報道」により雑誌のパワーを開花させた事実は揺るぎないところでしょう。
1970年代はインターネットが今のようには普及していませんが、現在はSNS花盛りで特にYouTubeを始めとして、ここ数年動画チャンネルはネット界を席巻しているように思われます。
私の関心事は、ネット界で沸騰している上海電力問題が、既存のメディアである新聞やテレビ報道に影響を及ぼすことができるか、の点です。オールドメディアを通じて広く一般国民に周知されるか、です。このようなことが実現できてこそ、SNSを通じた民主主義の新しい時代に繋がるように思うのです。国民一人一人の声が届き易い構造の確立とは言えないでしょうか。この時、SNSは大きな意義を実現させることになるでしょう。

金子氏動画タイトル一例

中核メディアになる日
金子吉友氏は、全く新しいタイプの言論人であり、ユーチューバーとも言えます。芸人が池上彰氏で勉強して動画登録者数を稼いだり、既存の専門家が動画でもアピールするというのとは違って、情報収集力、話し方、動画構成力等、その資質が新しいと感じられます。水際立っています。
また上海電力問題に関して一つ付け加えるとすれば、金子氏の動画のパートナーとして登場する“J氏”の存在も大きいと言えましょう。動画の構成としてJ氏との対話形式とする回があるのですが、このJ氏がまた凄い。マカオ在住で、調査に関わっている方のようです。情報力、物の見方がハンパないと言っておきます。要は中国の立場、視点で上海電力問題を語れるのです。金子氏がこの問題に関してJ氏のエッセンスを注入していることは間違いありません。

大阪の府議や市議達も動き出したようです。SNSが上海電力疑獄という大きな爆弾いやテーマと出合って、新たなジャーナリズムの時代を形成する、今まさにその場面に差し掛かっているのかもしれません。このブログを投稿する頃には、大手メディアがこの問題の報道に乗り出し始めていることを願うばかりです。★

補足
私が最初に見た金子氏の長時間動画が「橋下徹の密謀説」であったかは判然としません。別のタイトルのものだったかもしれません。