渋谷キューズの難点

「難点」という用語にはどうも引っ掛かります。貧弱な感じが拭えません。それでもタイトルに使うのは、故なきことではありません。


ここ数週間来ずっと渋谷キューズについて、どう理解したらいいのだろう、と取り組んできました。パンフレットを読み、ウエブサイトを調べるだけでなく、キューズのエンテランスまで行き、3回ヒヤリングを行ないました。その内一度は、コミュニケーターに施設を案内してもらい、説明を聴きました。


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また、3回目の時は、キューズの会員審査にも関わるという星〇氏の説明に触れ、キューズをテーマに語り合うことになりました。この機会を経て、会員になった暁には、きっと得られるであろう充実感を疑似体験できたと思えました。


しかし、私にはキューズが未だによくわからない、というのが正直なところです。安易にキューズを貶めるような記事を書くのは望むところではありません。私のキューズへの期待を簡単にお伝えするには、以下の数行で十分かと思います。

 

「私がキューズに寄せる期待と、その会員になった場合の満足感を表そうとするなら、私の名刺に渋谷キューズ会員と記載する日がくることです。こんな名刺を持てた日には、キューズ会員として自己紹介に及ぶでしょう。私にとってのキューズとは、そういう価値ある存在として、輝きを放っているわけです。」


そんな私が「渋谷キューズの難点」を書くことに決めたのは、このタイトルが最適と思うに至ったものがあるからです。それは、ずっと歩きながらも考え続け、その時は信号を一つ余計に行き過ぎてしまいました。


視点の反転


私が自宅への帰り道に気づいたと思ったのは、ずっとキューズという施設を理解しようとして未だに不明点が残るということは、もしかしたら、キューズ側に問題があるのではないか、と視点の反転が起きたのです。十分な事前告知や情報提供ができていないのは、そもそもキューズの商品が不明確だからでは?ということです。


「共創施設」や「可能性の交差点」と言っているのですが、わからないところが残り、理解できないところが生じてくるのです。

キューズ会員を検討している人間に対して、必要十分な情報を提供し、あるいは、それがなくても何としてでも入会したいと思わせられなかった時点で、すでに終りではないでしょうか。これをもって私はキューズを否定的に結論づける方向に、大きく傾いているわけです。


私がキューズを貶める趣旨でこれを書いているのかどうかは、ひとえに以下に述べる私の見方の説得力のみがそれを決めることになる、そういう思いで臨んでいます。

 

私のキューズに対する疑問は二つです。
①キューズは何をするところなのか
②キューズはいかに行なうのか


キューズへの2回目の訪問の際、コミュニケーターから、「私らもキューズとは何なのか説明できないのです」というコメントがありました。私はそれを
可変する性質を持った施設と理解しました。しかし、今、私はキューズの組織としての主体性がわからないと感じています。


キューズの原動力となるのは、スクランブルソサエティを構成する、組織としてのQUZコミュニティとQUZプログラムでありましょう。特にこのプログラムについて不明点があるのですが、「キューズの組織としての主体性がわからない」と言う時、経営・営業主体の意思が見えない、という面もあります。


これはひとえに全く新しい施設であることから生じている可能性はあります。しかし、よくわからない
ことに参加しようとする人がいるでしょうか。私が思うのは、キューズはビシッと自らを語っていないのではないか、ということです。


「共創施設」とは?


パンフレットには、「渋谷から世界へ問いかける」や「問いから生まれた可能性を社会に放つ」など、広告コピーが踊っています。しかし、いかにして行なうのか、の方法論が見えてきません。「共創施設」と言ったって、ソフトウェアが問われるわけであり、私はエンテランスを訪れた際、施設案内をしてくれるというコミュニケーターの好意を断ったのは、ハード面を見たってしようがないと思っていたからです。しかし、2回目の訪問時には、キューズを少しでも理解するには、藁にもすがる思いで、何か得られるものを求めて、施設案内を受けました。

 

それでは、キューズが何なのか、これを見てみましょう。新しいものを既存のもので捉えるというのは、本当は違うのかもしれません。しかし、理解への方法としては使えると思っています。


キューズを「朝日カルチャーセンター」のようなものとして捉えてみましょう。学ぶ場、主にすでに学校を終えた者が学ぶ場です。普通名詞としてのカルチャーセンターとして捉えた時、共通点は学ぶ場には違いありません。しかし、違いがあるとすれば、講師から教わるというより、会員サイドの主体性が、キューズでは問われることでしょう。


キューズの印刷物にしろウエブサイトにしろ、それは明確に伝わってきます。自分がテーマをもって臨まなければ何も得られないでしょう。
QUZメンバー
QUZコーポレートメンバー
QUZプロジェクトメンバー
等の会員類型があり、グループワークを重視しています。自分たちの意志で取り組むべき性格がわかってはいます。
我々は、場とプログラムを提供します、取り組むのはあなたです、ということになります。このことが、運営サイドの意志を曇らせている嫌いはありますが…


また、「世界へ問いかける」と言う時、どのような
発信方法を用意しているのでしょう。キューズイベントの開催に関し、厚労相の指導により、当面中止するとの告知を見つけました。渋谷キューズたるもの、世界に向けて発信する「意識高い系」カルティベーターとして、新型コロナウイルス問題に関して、なんらかのコメントを出すべきではなかったの
でしょうか。
キューズはシンクタンクではないでしょうが、せめて戦略的広報部ぐらいおけないものでしょうか。何をもって世界へ発信すると言うのでしょうか。おそらく、これも、会員に託されているのでしょう。

 

終わりが見えない


固有名詞としての「カルチャーセンター」や、「大前研一経営塾」を引合いに出してみましょう。これらと、キューズの違いは何だと思うでしょうか。それは、予め終りが明確かどうかという点です。「カルチャー…」にしろ「大前…」にしろ、カリキュラムの終りにて終了、がお互いに了解されています。しかし、キューズの場合は、会員として入会しておきながら(永遠に経済的に会費を納入し続けられるとして)、自らのテーマを再生産しない限り、会員であり続ける積極的意味は消滅することになると思われます。


あるいは、例えば企業のサポート目的にキューズを活用する場合は、それが成功したらキューズに来る必要はなくなるでしょう。それでも、キューズ法人会員費用資金にこまらない企業なら、メンバーを交替させて人を送り込むことはできます。
今時、一般論的ノウハウを社員啓蒙として会費を支払う法人はあるのでしょうか。たぶん、あるのでしょう。むしろ、ここがキューズの狙う需要の可能性があります。


自社のプロジェクトの場合なら、それを活性化させるのに、自らの機密情報を度外視して、外部を活用するでしょうか。情報の秘匿性を考える時、実は外部に頼れないという問題があるわけですが、キューズはここをどう考えるのでしょうか。契約に守秘義務を盛り込むことでしょうか。
そのため、最先端分野は鼻から無理が見えています。キューズはそこまで入り込むつもりはないのでしょうし、そこはマーケットとは思っていないのかもしれません。それこそ経営問題なら、マッキンゼーのコンサルを雇うことになるでしょう。


キューズは法人会員以外に、個人会員も募っています。一般個人にも門戸を開いています。研究成果を得てそれを公開したり、ルーズソックスを再び流行させることに成功したとしましょう。その次はどうするのでしょう。もし、そこで終りなら自ら退会手続きをすることになります。


ここで申し上げたいことは二つあって、商品設計です。終りがよくわからない(いつまで会費をはらうか)商品を買うでしょうか。また、顧客に持続的に商品を購入させるしくみはあるのか、の二点です。
もちろん、単発一回こっきり狙いなら、それはありえることです。
もっと言えば始まりもよくわからないところがあります。キューズで得られるであろう商品とその価値がよくわかりません。


大前研一経営塾」なら商品として明確なものだし、そのブランド価値に対して年間50万円も納得ずくで購入できます。「カルチャーセンター」のたとえば鎌倉歴史散歩、月5千円ならこれも、販売サイドも購入サイドも双方了解でしょう。価値が見えていて、それを購入するしないの判断を行なうことができます。

(キューズ個人会員費用、月額25千円)


キューズが何をやろうとしているか見えないというのは、企業として組織として収益を求める覚悟と、売ろうとする商品が見えないという点です。
リカレントスクールとして価値情報を提供していくものなのか、会議室レンタルスペースなのか。会員や会員グループの主体性に重きを置いていることと相俟って、やろうとしていることのわかりにくさに
繋がってきます。「キューズは何なのか、われわれにもわからない」ところの部分です。


キューズの心臓部


さらにキューズの商品が何かと言ったらソフトウェアでしょう。これを、いかにしてやろうとしているか、方法論がわからないのです。キューズの10のプログラムを見てみましょう。

①QUZチャレンジ

②クエスチョンカンファレンス
スクランブルミーティング
④QUZステージ
⑤QUZアカデミア
⑥QUZカルティベーション
⑦Q食
⑧Hachiko PITCH
⑨ リ/クリエーション
アクセラレートステーション


①QUZチャレンジが、この中で一番わかりやすいでしょう。いわば登竜門です。三人一組のグループで何らかのプロジェクトのプレゼンを行ない、採用されれば、3ヶ月間無料でキューズを利用できるというものです。
私がキューズの最大の難点と思えるのは、その有益性や価値が、会員になって入ってみてしかわかりそうもないことです。事前に価値がわからないことに

人は投資できるでしょうか。それを事前に伝えることができていない時点で問題ありと思うのはこのことです。
大前研一経営塾」と「カルチャーセンター」において事前に見えているものと、キューズのそれとを比較すれば、明確になるのではないでしょうか。

もちろん、だからこそQWZチャレンジという無料お試しコースがあるわけで、よくわからないが実際にやってみようと取り組める、合格者だけに限られたチャンスではあります。


②クエスチョンカンファレンスとは、何でしょう。
ビジュアルを見る限り、多人数で会議を行なうもののようです。どういうメンバーでどんな進行で会議をするのでしょう。会員のテーマと会議のテーマをどのように関連づけるのでしょう。テーマの評価をする場なのか、アイデアを出そうとする場なのか、
わかりません。人数が多いからアイデアが出るというものでもないでしょう。
事前に、今、このプログラムが評価できない限り、
参加モチベーションは生まれようがありません。


スクランブルミーティングとは、何でしょう。
プロジェクトメンバー限定の予約制ミーティングだ
そうです。個人会員には関係なさそうです。
では、プロジェクトメンバーなら、会議室が使えますという意味なのか、アカデミアの提携大学から支援を受けられるというのでしょうか。大学のどういう方から、どんな形でサポートを得られるというのでしょうか。
事前に、今、このプログラムが評価できない限り、
参加モチベーションは生まれようがありません。

 

④QUZステージとは何でしょうか。「可能性の種を発表する場」との記載があります。
ステージに参集する方々の前で、自分のテーマを発表する機会があるということなのでしょうか。どういう方々が参集してくれるのでしょうか。聞いてくれる人のいる発表機会を設けますよ、ということなのでしょうか。
法人会員は、秘匿性を省みず自社の新規開発テーマを、わざわざ発表したいでしょうか。
個人会員は、自分の研究成果を人前で発表できて良いかもしれませんが、なんらかのフィードバックが得られるのでしょうか。
事前に、今、このプログラムが評価できない限り、
参加モチベーションは生まれようがありません。


⑤QUZアカデミアとは何でしょうか。
東京大学慶應義塾大学等とキューズが提携していて、彼らのサポートが受けられそうな感じがします。高学歴のどんな方が、どんな風に、個人会員や法人会員に絡んでくれるのでしょうか。ここでは、著名大学のネームバリューが重要なのではなく、どんな専門分野の方が、具体的にどのように、どのぐらいの時間関われるというのでしょうか。
事前に、今、このプログラムが評価できない限り、
参加モチベーションは生まれようがありません。


⑥QUZカルティベーションとは何でしょうか。
これは、(株)ミミクリデザインが関わるようです。
同社は、ここで今正に紹介しているプログラムの開発を行なったように受け取れます。
出会う、磨く、放つの3つのフェイズに沿ってレクチャーシナリオのようなガイダンスがありますが、これは、一般論でしかないように思います。会員個々のテーマに具体的にどう向き合うのか判然としません。
事前に、今、このプログラムが評価できない限り、参加モチベーションは生まれようがありません。


⑦Q食とは何でしょうか。
食べながら何かをしようとしているようです。関わるパートナーは、NPO法人エティック。どのように会員と、テーマを共有しようとするのでしょうか。
事前に、今、このプログラムが評価できない限り、
参加モチベーションは生まれようがありません。

 

⑧Hachiko PITCHとは何でしょうか。

出会いたい人と「ハチ合わせ」する機会のようです。ピッチを通してそれぞれの持つテーマを知り合おうということなのかもしれません。ピッチによる発表機会とも受け取れ「ハチ合わせ」を生む具体的な方法が伝わってきません。
個人会員にとって、同じような問題意識を持つ人との出会いは極めて重要です。私はキューズの核心を
ここに置いてもいいのではと思えるくらいです。人と人とを繋ぐ、マッチングというフェーズのことです。キューズはグループワークを重視し、構成しようとするなら、なおさら必要です。
具体的な方法をわかりやすく説明していない、説明上の問題だけなのでしょうか。
事前に、今、このプログラムが評価できない限り、
参加モチベーションは生まれようがありません。


⑨ リ/クリエーションとは何でしょうか。

(一社)ドリフターズ・インターナショナルがパートナーということで、専門家がフィールドワークに
導いてくれることとか、「アートデザインの視点をプロジェクトにつなげます」となっていますが、どう、会員のテーマに即するのか、会員への気づきを
刺激しようとするのか、わかりません。

事前に、今、このプログラムが評価できない限り、
参加モチベーションは生まれようがありません。


アクセラレートステーションとは何でしょうか。
独立行政法人国際協力機構が関わるようです。キューズは国際協力関連にも、手を広げているようです。でも、やはりどのように会員が関わるのかは、不明です。
事前に、今、このプログラムが評価できない限り、
参加モチベーションは生まれようがありません。


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これら10のプログラムは、場の機会を提供するものと、パートナーの支援を提供するものとに大別できるかもしれません。これらは、キューズの中核部分かと思われます。しかしながら、プログラム間の関連が示されているわけではありません。


個人であれ、法人であれ、キューズの会員になり、
どうプログラムに関わっていくのか、見えません。
ここは、参加事例として、会員がプログラムに参加していくプロセスを、ストーリー的に表現してくれないと、理解できません。
バイキングのように、「メニューはこれだけあります、お好きにお取りください」状態なだけです。実は、お好きには選べない可能性があるかもしれません。それも不明確です。


事前に、今、キューズのプログラムが評価できない限り、参加モチベーションは生まれようがありません。


今わたしが思うのは、事前の説明不十分問題が本質ではなく、キューズのコンセプトが疑わしいということです。説明が十分に為されたところで、コンセプトがないのではないか、という疑念です。「コンセプトがない」というのは、「共創施設」という表現の問題ではなく、ひとえにその中身のことです。
「…施設」という箱が売りではないでしょう。「共創」の中身のことです。


「共創」とは何か?

 

いかにして「共創」を実現するかのキーファクター
を含んだ内容をコンセプトに充填してほしかった、
という思いがあります。そこをワンフレーズで伝えられてこそ、キューズの新しい価値が表現され、需要創造に寄与するものと思われます。


表現の問題ではありません。商品設計に尽きます。

 

昨年の11月1日に開業した渋谷スクランブルスクエア。地下2階地上45階、ショッピングセンターを含む複合型超高層ビルとしてオープンしました。渋谷キューズはこの15階に創られました。


そもそも渋谷駅前の再開発事業として工事が進められ、東急、JR、メトロの鉄道会社御三家が関わっています。各路線が何本もショッピングセンターに直結していて、かつ交差していて、正に、スクランブルスクエアときています。なんという立地でしょうか。


もう、あの東急文化会館はないんですからね。閉める時はニュースになったと思います(2003年)。それは渋谷ヒカリエに換わり、令和の時代になり、隣が渋谷スクランブルスクエアになり、しかも直結しています。今、渋谷はドエライことになっているといえましょう。


5年後10年後、渋谷キューズはどうなっているのでしょうか。良い方向に可変していることを願っています。★